「建物語」(1) ~深谷 旧大谷藤豊邸~

CULTURE

「建物語」(1) ~深谷 旧大谷藤豊邸~

JUN.23.2016

宿場町として栄えた歴史をもつ埼玉県・深谷。この街には昔の面影を留める歴史的建造物が点在しており、当時の暮らしの様子や職人の技、美意識など貴重なものが数多く残されています。今回は、昭和初期の大恐慌の中、“職人たちの生活を救うため”に建てられた深谷の洋館を、銅版画家・山本容子さんとともに訪ねました。

多数の職人の長期雇用を生んだ旧大谷藤豊邸

多数の職人の長期雇用を生んだ旧大谷藤豊邸

深谷市街の中ほどに立つ、旧大谷藤豊邸。緑の屋根と窓のアーチが印象的な洋館は、街のランドマークとして愛されています。

大谷家は江戸時代中期から続く中山道深谷宿の有力商家。昭和初期の大恐慌の際には、当時深谷町長だった当主の大谷藤豊が困窮する人々に手間賃や食糧を与えるため、自邸の建築事業を行いました。

お助け普請の典型例であるこの建物は、連日100人以上の職人を1年半も雇用して建てられたそう。職人たちにとっては、長期間働けば生活が助かります。そのため、誰もが自分の腕前を最大限に生かし、隅々まで高度で精緻な技量が発揮されたのです。

随所に見られる高度で精緻な匠の技量

随所に見られる高度で精緻な匠の技量

「この家の印象的な点は、全体もさることながら、やはり職人の技量が表れた細部でしょう。使われている木材も柿や杉、桐、欅など実に多彩。絵を鑑賞する際、どんな絵の具や絵筆を使ったのだろうと注目するように、まずは細部の質感に目が奪われてしまう。洋と和のバランスも絶妙で、素材と技量が交響曲を奏でるよう」と、竣工当時のままの細やかな意匠に、美意識を感じとる山本さん。

大谷藤豊の肖像画が飾られた1階の応接間は、格天井をはじめ匠の技量が随所に見られ、その丁寧で緻密な仕上げは、私的な2階空間にまで施されています。色ガラスの明かり取り飾り窓など、職人の繊細な技と心意気を伝える美しい装飾も。

職人同志により、守り語り継がれる歴史

職人同志により、守り語り継がれる歴史

現在は藤豊の三女である百子さんがご主人とともにこの家を守られていて、家具や照明器具なども当時のままに残されています。平成16年には、国の登録有形文化財に指定されました。特筆すべきは、「大谷会」ともいうべき職人同志の応援体制ができあがり、篤志的に保存維持され続けている点です。「職人たちの心意気や、建て主の強い情熱が感じられる。その熱い精神は、時を超えて今の人々にも伝わり、建物を残そうという愛着へつながっていると思う」と 、山本さんは共感を交えて締めくくった。

職人同志により、守り語り継がれる歴史02

山本容子

銅版画家。版画の他にステンドグラスやモザイク壁画など活動の幅も広く、絵本や画集などの著書も豊富。

http://www.lucasmuseum.net/

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