子どもが居心地のいい空間とは

CULTURE

子どもが居心地のいい空間とは

JUN.28.2017

科学的な観点から、脳と空間との意外な関係を、脳の研究者である池谷裕二教授に語っていただく3回シリーズ。第2回は、子どもが落ち着く空間や、池谷教授の考える「逃げ道」のある間取りについてご紹介いたします。

家族団らんが子どもの脳を成長させる

大人は開放感のある空間を好みますが、小さい子どもは狭いところも好きですよね。母親に抱っこされる延長で、いつも身体が何かに触れていたいからです。

そこで、うちはリビングのソファを壁につけず、少し手前に出して、子どもたちがソファの後ろで遊べるように配置しました。部屋が広すぎる場合は、工夫してそういうスペースをつくればいい。成長とともに居心地のいい空間は変わっていくので、家具を変えるなどして部屋も変化させていけばいいと思います。

子どもと同じ部屋で過ごせば、親の目が届くし、お互いの声が聞こえるのも安心感につながります。実は、就学前に親との接点が多ければ多いほど、記憶にかかわる脳の器官「海馬」が大きく成長し、知的能力の発達がよくなるというデータがあります。親にしっかり遊んでもらった子どもほど、精神的に安定するだけでなく、その後の知的水準が高い。

また、勉強のことで言えば、部屋に閉じこもるより、リビングや放課後の教室、喫茶店など、人のいるところのほうが勉強がはかどる、という人も多いですね。適度に人の目にさらされることで集中力が高まるし、安心感も得られるからでしょう。

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大切なのは、他者と空間を共有することなのです。例えば、全く知らない人と一緒に、会話もせずチョコレートを食べてもらうという実験で、ひとりのときよりも複数のときのほうがおいしく感じるという結果が出ています。言葉を交わさなくても、同じ空間にいるだけで意味があるというわけです。

対面でのコミュニケーションが大事なのはもちろん、空間を誰かと共有すると、感覚がより研ぎ澄まされる。人とつながっている安心感に包まれるというのが、私たち人間、社会性のある生き物が生まれ持った性質なのです。

「逃げ道」の存在がストレスを軽減する

新居の間取りを検討するとき、一部屋一部屋を大きく、家族4人と犬が一緒にいても余裕のある空間を心がけました。「逃げ道」のある空間づくりが大切だと考えるからです。

まず現代生活ではつき合っていかざるをえないストレスの話から始めましょう。人間の身体がストレスを受けると、脳の視床下部や下垂体が活性化され、腎臓の脇にある副腎皮質からストレスホルモンが分泌されます。少量なら生きていくために必須のホルモンですが、多くなりすぎると不眠や食欲不振、鬱を引き起こし、ひどい場合には神経機能が死んでしまって二度と元に戻りません。

このストレスホルモンの血中濃度を人為的に上昇させた実験があります。薬剤の投与で、ストレスホルモンが10倍にも増えるのです。ところが、点滴されている被験者のベッドの枕元に「これを押せばいつでも中断できますよ」というボタンを置いておくと、実際に押さなくてもストレスホルモンの上昇量が5分の1くらいになる。つまり、いつでも逃げられるという安心感があるだけで、ストレスが減るのです。ここからわかるのは、逃げられないストレスがいちばん怖いということです。

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家の構造でもそれが重要だと考え、火事など非常時の経路だけでなく、ふだんの生活動線でも意識しました。例えばわが家は、リビングと廊下、どちらを通っても寝室に行けるよう、ふたつの経路がある回遊型の造りにしてあります。将来的に家族間でけんかをしたり、ひとりになりたいときがあったりしても、「逃げ道」つまり「ほっとできるスペースや動線」が確保されているというだけで安心感につながり、家にいようという意欲が高まると考えたからです。

日々の暮らしのなかで、少し意識を変えるだけで取り入れられる考え方、参考にしたいですね。次回、第3回は、無意識に働きかける木目や色の作用について語っていただきます。

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<PROFILE>

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池谷裕二教授

Yuji Ikegaya

1970年静岡県生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。脳研究者。『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』(ともに講談社ブルーバックス)、『受験脳の作り方』『脳はなにかと言い訳する』(ともに新潮文庫)など著書多数。

http://www.yakusaku.jp/

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