ミラノデザインウィーク2016<br>見月伸一さんによるトレンド分析

DESIGN

ミラノデザインウィーク2016
見月伸一さんによるトレンド分析

AUG.23.2016

今年も4月12日から6日間に渡って開催された、ミラノサローネ国際家具見本市。10年以上に渡って定点観測を行っている、三井デザインテック クリエイティブディレクターの見月伸一さんに今年のミラノサローネと最新トレンドについて、分析してもらった。

世界最大規模の家具見本市、ミラノサローネ。55回目となる今年は、入場者数が前年比20%増の37万2151人を記録し、大盛況を見せた。

インテリア業界の動向がわかるサローネでまず目に付いたのが、色の変化だ。今年は、色の存在感を強く感じさせる、これまでにない色の組み合わせが非常に目立った。

その象徴が、パトリシア・ウルキオラをアートディレクターに迎えたカッシーナだろう。新鮮なグラフィックとカラーで生まれ変わった名作ユトレヒトソファーやコントラストの効いたブルーとオレンジの空間など、ありそうでなかった色の組み合わせで、地味でもなく派手でもない新鮮な家具や空間に仕上がっていた。

従来はキャンバスのような無彩色の壁に、家具でアクセントを作る事が多かった。しかし、今年目立ったのは、色のついたキャンバスにさらに色を乗せるような、色の掛け算だ。しかも、使うのはあくまでもシックな色である。これは、ここ2年ほど前から続いていた、「シックな秋冬カラーのトレンド」という流れの延長線上にあると言える。

しかし、色の存在を際立たせるシックな色の掛け算は、簡単に真似できるものではない。今年の色の組み合わせ方は、今までにない新しい色の掛け算の仕方になっている。これは、トップレベルのデザイナーが非常に高度なセンスと色彩感覚を駆使して作った、贅沢な色の世界だと言える。

[Color Effect – 1]

今年は「色」の存在感が強調されたシーズン。全体的に彩度は低めだが、スモーキーパステル系のカラーや繊細で独特なグラデーション表現が新たな世界観を創出した。

[Color Effect – 2]

トレンドカラーとなるカーキ系カラー。赤の差し色との掛け合わせで今年らしさを強調。オータム系のディープカラーも登場しインテリアはよりクラシックなニュアンスを強めた。

そして、今年のもう一つのキーワードは、異なる素材やフォルムを掛け合わせる「ハイブリッド」だ。木のキャビネットにガラスのボックスが刺さった家具や、クラフトマンシップ溢れる木枠にアクリルの座面をはめ込んだチェアなど、デザインにも素材の組み合わせにも違和感を感じさせる、ハイブリッドな表現が目立っていた。

使う素材を木だけ、ガラスだけに限定したものを進化させても、見え方が大きく変わることはない。しかし、異なる素材を組み合わせることで、調和の中に違和感が生まれ、お互いを引き立てあうことができる。それが新しさや次世代感を感じさせるのだ。

もちろん、これまでも古いものと新しいもののハイブリッドは存在したが、今年は組み合わせ方に工夫と遊びがある。デザインの次の世界を創造しようとするデザイナーのチャレンジ精神が感じられた。

[Hibrid]

フォルムや素材・色において異なるものの対比的な組み合わせによるデザインが増加。今までになかった組み合わせの違和感を楽しむデザイン。

これまでは、プロダクトや建築、アパレルといった分野ごとに専門のデザイナーがおり、デザイナーの住み分けがなされていた。しかし、近年ではインテリアを手がけるアパレルブランドが増えるなど、デザイナーのクリエーションの範囲は曖昧になりつつある。物作りにおけるテクニカルな部分は、進化したテクノロジーで補えるようになったことが、その流れを後押ししている。

こうした時代の流れを受けて、デザイナーは今後ますます、カテゴリーに縛られずに活躍するようになるだろう。そこで求められるのは、プロとしての「発想力」ではないだろうか。

今年のミラノサローネで目立った「色の掛け算」と「ハイブリッド」は、時代の流れを感じ取ったプロからの答えなのかもしれない。

<プロフィール>

三井デザインテック クリエイティブディレクター 見月伸一

Text=吉田渓 YOSHIDA Kei

出典「LORO」

http://www.mitsui-designtec.co.jp/loro/

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