リーデルのワイングラス

DESIGN

リーデルのワイングラス

NOV.11.2016

記憶を刺激する五感の中で、人間の心の深層に一番深く伝わるのは“嗅覚”だと言われています。なぜなら、嗅覚は五感の中で唯一、脳と直接つながっているから。食欲や喜怒哀楽といった本能的な行為を掌る部分と、嗅覚は、脳の同じ部分でコントロールされているのです。

ワインによって変わる、さまざまな形のリーデルワイングラス

ワインを飲むとき、最初に感じるのは嗅覚への刺激。よく、ワインの表現の中でバラとかカシスとかバニラといった香りの形容を目にすることが多いと思いますが、ワインは色など視覚情報の次に、まずこうしたアロマでその美味しさを味わい、そして味覚の味わいへと繋がっていきます。色→アロマ→味というワインを楽しむ流れの中で、一番大切なことはグラス選びです。ワイングラスの善し悪しで、同じワインの味が劇的に変わることをご存知でしたか? ワインへの造詣が深いレストランで、ブドウ品種ごとに適切な形のワイングラスに変えてくれるのは、こうした理由があるからです。

ブドウ品種ごとにグラスの形状を変えるという文化は、ひとつのブランドから始まりました。それがオーストリア発祥で、いまや世界中で愛用されているワイングラスのトップブランドである『RIEDEL/リーデル』。見た目の美しさを重視した製品が長い間の主流だったワイングラスの世界に、機能性ワイングラスという価値観を定着させました。ガラス工芸で名を馳せたリーデル社の9代目の当主であるクラウス・ヨーゼフ・リーデルは、同じワインでも異なる形状のグラスで飲むと味が変わることに気が付き、1961年に発表した同社カタログの中で、グラスの形状が中に注いだワインに与える影響に初めて言及したのです。彼は当時世界中にあったワイングラスを調べ、その結果、ほとんどのものが小さすぎて、ワインを正当に評価できない、という事実を掴んだのでした。

リーデルワイングラスの最高峰はハンドメイド。専門の職人による名品は、芸術的な実用品ともいえる。

そして1973年に手吹きのステムウエア「ソムリエシリーズ」を発表。装飾を一切廃した機能の中に美しさを求めたシンプルで美しいそのワイングラスは、従来のものよりも薄いガラスで作られ、たっぷりとした容積を持っていました。グラス内の容積を増やすことで、ワインの香りがより敏感に感じ取れるようになり、その高い機能と美しさは、世界中のソムリエやワイン愛好家に激賞されたのです。斬新かつ、ワイン業界に新風を巻き起こしたこのトレンドは、現代に至るまで確固たる価値観として定着するようになりました。ワインによってグラスをセレクトすることがスタンダードとなったのです。

繊細な飲み物であるワイン。その熟成された液体を受け止めるグラスは完璧なものでなくてはなりません。せっかくのヴィンテージを、グラスを意識しないでいただくことは、多くの楽しみや感動を放棄しているのと同じことです。グラスでワインの味が変わることを、是非多くの方々に知っていただきたいと思います。

世界が認めるワイングラスの製造メーカーであるリーデルですが、その守備範囲はワイングラスだけではありません。日本酒を最高の状態で飲むための「大吟醸」や、コカ・コーラ専用のグラスもあります。また、フルート型が主流だったシャンパーニュ・グラスにもリーデルの新しい提案が生まれて、それが主流になりつつあります。

「ヴィノムシリーズ」カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー

ボルドーワインを飲むのに最適なグラス。透明度が高いガラスを通して見るクラレット(赤紫)は感動ものの美しさ

「ヴィノムシリーズ」ピノ・ノワール

これがブルゴーニュワインを最高の状態でいただくためのワイングラスの形。繊細なバーガンディ(赤)を楽しもう。

2015年に発表された、羽のように軽く薄氷のように薄いハンドメイドグラスの最高峰「リーデル・スーパーレジェーロ・シリーズ」。マシンメイド(ブロック体)とハンドメイド(筆記体)でロゴの形が異なる。

写真提供:リーデル・ジャパン

http://www.riedel.co.jp

<プロフィール>

土居輝彦/ドイテルヒコ

1982年より「monoマガジン」で雑誌編集者に。1984年より2004年まで同誌編集長。その後も同誌編集ディレクターとして「Loro」、「クロムハーツマガジン」などの刊行物を多数創刊。IDSデザインコンペ副審査委員長、クールジャパン推進会議出席などモノ文化全般の視点で活動中。主な著書に「機能する道具、傑作品」、「築35年古家再生」(共にグリーンアロー刊)など。

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