肌で感じる最高級――「海島綿」

CULTURE

肌で感じる最高級――「海島綿」

AUG.30.2016

コロンブスの発見から約100年間、西インド諸島はスペインの統治下にありました。スペイン人が欲しがった財宝はそこにはありませんでしたが、後にその島々のいくつかが英国領となり、英国人たちはこの地の気候風土がある特殊な綿花の栽培に適していることを発見します。その綿花から作られるのは、繊維長の長い超長綿と呼ばれる種類。それが「海島綿/Sea Island Cotton」です。現在でも、全綿花生産量の100分の4ほどしか収穫されないこの希少な綿花は、かつての英王室では「綿製品は海島綿」という決まりがあるほど珍重され、エリザベスⅠ世のシーツやナイトウエアはすべて海島綿で作られていたという記録も残っています。

海島綿は非常に繊細な肌ざわり。その綿で作られたウエアを一度でも着たら、もう二度と他のものは着られないと言われるほどの気持ち良さがあります。最高級の素材がその手触りや肌触りで初めて理解できるように、海島綿もまた、その着心地、肌触りで最高級の品質を味わえる素材なのです。ただこの綿花、育成環境にものすごく制約があり、その品質の良さに目を付けたアメリカや明治時代の日本でも作付けが行われましたが、いずれも越冬できずに失敗しています。西インド諸島の中でも“小アンティル”と呼ばれる島々だけでしか生育できないのです。綿花の発芽時期に雨に恵まれ、開花時期には乾季が訪れるという気象条件、そして開花後はコットンを優しく包む貿易風が吹くという、奇跡のような気候風土があって初めて得られる品質なのです。

海島綿の栽培は16世紀末くらいから。当時それらの島々を統治していた英国では、この最高級のコットンは“門外不出”の農作物であり、ずっと英王室に愛でられ続けました。その伝統は現在でも続いており、1930年代にはエドワード8世が海島綿の愛好者であることを公式に発表、1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃のご成婚記念にはシーツとピローケースが贈られ、1990年にはエディンバラ公フィリップ殿下に260番双糸のハンカチーフが贈られ、その品質にエディンバラ公が大感激したという逸話も残っています。

ある程度の生産量を確保できるようになった現在、海島綿は厳しい管理下で生産がコントロールされています。実は原綿から糸を作れるのは世界の中で、スイスの企業と日本のニットーボーのみ。供給される糸は海島綿協会がコントロールし、製品を作る企業に供給されます。ジェームズ・ボンドが愛用するターンブル&アッサーのシャツ(海島綿で作られていることで有名)も、その供給された糸で作られているわけです。日本では「協同組合西印度諸島海島綿協会」がすべてをコントロールしています。海島綿のウエアは国内でも購入できますので、最高級の肌触りを一度経験されてみてはいかがでしょう?

超長綿である海島綿の魅力は、絹のような細かさと光沢、復元力に富み抜群の耐久性、圧倒的長い繊維による極上の肌触り、天然の撚りが生む風合いと吸湿性など。特に多湿な日本の気候に合う吸湿性の高さが生むソフトな肌触りは抜群の心地良さ。

「The Cotton Culture&Style(ワールドフォトプレス刊より)」

<プロフィール>

土居輝彦/ドイテルヒコ

1982年より「monoマガジン」で雑誌編集者に。1984年より2004年まで同誌編集長。その後も同誌編集ディレクターとして「Loro」、「クロムハーツマガジン」などの刊行物を多数創刊。IDSデザインコンペ副審査委員長、クールジャパン推進会議出席などモノ文化全般の視点で活動中。主な著書に「機能する道具、傑作品」、「築35年古家再生」(共にグリーンアロー刊)など。

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